Serenita

感情の消化。

【世界一周】#36 大好きな人たちに会いに行く旅 〜アメリカ編ヒスパニック①〜

今回の記事の大枠(大文字部分)

羽田→シンガポール→ロンドン→ブリュッセルアムステルダムブリュッセル→ロンドン→バルセロナマドリードパナマ→アルバ→キュラソー→アルバ→パナマ→ヒューストン→ダラス・フォートワース→ロサンゼルス→成田

 

ふう。実習の山場を乗り越え、久しぶりの投稿。この後も実習が続くので、束の間の夏休みに書き終えるぞ。(やる気だけは完璧)

 

今回はアメリカで暮らす移民の生活や、彼らの人生について書きたいと思う。もちろん移民と言っても様々な人たちがいるし、一概に言うことはできないけれど、教科書で習う「ヒスパニック」と呼ばれる人たちがどんな人たちなのか、そして母国を離れてアメリカで暮らすとはどんな意味を持つのか、少しでも見たこと聞いたこと思ったことをシェアしたい。

 

※私のホストシスターはメキシコ系のヒスパニックです。

 

ところで毎回「私のホストシスター」と書くのは面倒になってきたので、今回から彼女をEとする。

 

 

アメリカで暮らすヒスパニックの人々

中学生の時、社会の覚える単語の定番に「ヒスパニック」があった。そしてその数が著しく増加しているということも習ったけれど、なぜそれが教科書の太字になるほど重要なのか、よく分からないまま高校生になった。今思えば、分からないなら自分で調べるべきだったけれど、結局はテストで「ヒスパニック」という単語が書ければ良いだけなので、彼らがどんな人たちなのか、どんな人生を生きているのか知らないところで困ることはなかった。でも高1の時にこのホストシスターEに出会い、そしてパナマに留学して初めて、ヒスパニックと呼ばれる人たちが教科書の中だけでない、現実に存在している人たちとして認識された。

 

ヒスパニックとは、米国国勢調査の定義を訳すとラテンアメリカ出身のスペイン語を話す人々とされている。つまりヒスパニックは人種を指す言葉ではないので、白人系もいれば、黒人系のヒスパニックも存在する。ちなみにEはとても白人系である。

 

昨年の国勢調査に基づくと、自分の人種について「ヒスパニック(もしくはラティーノ)である」と回答している人は全人口の20%弱で、その数は年々増加している。最も多いのはカルフォルニア州で、テキサス州フロリダ州と続くが、人口の割合だとニューメキシコ州に住む実に約半分がヒスパニックである。そしてテキサス州カルフォルニア州で約40%、アリゾナ州では約30%がヒスパニックであり、これを地図に当てはめると南部の州、地理的にメキシコに接している州の割合が当然多くなる。

 

ヒスパニックの人たちはアメリカンドリームを夢見て国境を跨ぐ。当然国境を接するメキシコ系の移民は多いが、南米大陸カリブ海の島国(キューバやハイチ)からの移民も多い。

 

南米からの移民は、パナマとコロンビア国境のダリエン地峡と呼ばれる熱帯雨林を超えて北上する。その地峡は今年7月までに25万人が通過しているが、そのほとんどがベネズエラ人だった。(ベネズエラ情勢については以前書いたので割愛。)すでに昨年1年間で通過した人数を上回っており、このペースだと今年のその数は40万人に上るだろうとパナマ出入国管理局は予測している。

 

この地峡は世界遺産にも登録されている動植物の宝庫なのだが、なにせ厳しい自然条件の密林のため、パナマ政府もコロンビア政府も管理が行き届かない無法地帯で、ゲリラが潜伏している。コロンビアで生産された違法薬物も、ここをスッと通り先進国へと運ばれているし、窃盗や強姦などの犯罪が横行。過去には南米と中米を結ぶ高速道路の建設も提案されたが、今でもこの地峡を陸路では「普通」越境できない。それでもアメリカを目指す人々は、この地峡を何日もかけて渡る。移民が歩いてアメリカを目指すのは、航空券を買うお金がないのではなく、国境警備が行き届いていない穴場を狙うためなのである。空路や海路では、出入国管理局の審査を免れることはまず不可能だから。

 

移民の言語

Eも10歳の時にメキシコから越境し、最初は不法移民として暮らしていた。そのうち学校に行き始め、英語を習得したが、今でも彼女の英語はスペイン語訛りが強い。(でも不思議なことに、彼女と出会った高校生のころは、彼女の話している英語が完璧に聞こえていた。それに気付くことができたということは、この9年で私の英語力は随分成長したのだろう。)全体的な発音や抑揚が訛っているのだが、特定の音の発音についても気になったので紹介する。

 

例えば「Y」の発音。ヨーグルト(Yogurt)をしばしばスペイン語話者は「ジョーグルト」と言いがちである。何度か書いたが、スペイン語では「Y」の発音が「J」の発音と近くなり、どちらで発音しても問題ない。分かりやすい例が「Yo(私)」という単語。人称代名詞であるから頻繁に使われるが、人によって発音がマチマチで、ラテンアメリカでは「ヨ」ではなく「ジョ」と発音する人が多い。まあどちらで発音しようと彼らには同じように聞こえているが、日本語話者や英語話者のように、Yの音とJの音を区別する言語の人にとったら「ヨ」と「ジョ」は全く異なる音である。そのため、「ヨーグルト」を「ジョーグルト」と言われた日には、頭の中が一瞬ハテナだらけになるのである。

 

発音が訛っているだけでなく、Eは三人称単数を忘れる時がある。「She doesn't care.」を「She don't care.」と言ったりするのは、英語ネイティブじゃない私でも気になってしまう。三人称単数を無視する黒人がこのように話すのは「間違い」とは言い切れないのだが、彼女は「doesn't」を使える時と使わない時があり、一貫性がない。そのような話し方をすると、英語ネイティブ的には「なんでそんな話し方をするの?」と思うが、毎回間違って話していると、「この人はこういう話し方をするんだ」と納得してしまうらしい。英語が完璧でないことをネイティブでもない私がとやかく言いたいのではなく、ヒスパニックの中には完璧な英語を話さない人もいる。この完璧な英語を話すことを求められない環境は、私にとって過ごしやすい、言わば「ぬるま湯」だったのである。

 

なんならEの両親は英語がほとんど話せない。アメリカで暮らすヒスパニックは、その数の多さゆえ、スペイン語を話すコミュニティの中だけで生活が完結する。そして彼らの中には、スペイン語を強く自分たちのアイデンティティの1つだと思っている人も多い。Eは「自分のルーツの言語を話せないのは悲しいこと」とすら言っていた。だから保守的なアメリカ人は、この移民先の文化に同化しようとしないメキシコ人を脅威に思っている人もいる。

 

ただ、現在では自分の親は中南米出身だが、本人はアメリカ生まれアメリカ育ちである人も多く、私の元カレアメリカ人くんなんかはその1人。彼は両親の出身国であるコロンビアに物心ついた頃から行ったことがなく、ラテン文化や情勢についてもむしろ私の方が詳しい。スペイン語は9割方理解できるが、話すことはできない。だからヒスパニックと一括りにしても、彼らの人生観やアイデンティティは人それぞれ。

 

話をEの家族に戻すと、Eの兄弟は全員スペイン語が流暢にできる。その中でも一番下の弟はまだ6歳で、言語の獲得過程にあるため、見ていて非常に興味深かった。彼は常に英語とスペイン語が混ぜこぜの文を話す。例えば、英語で言うならば「〇〇(名前)is  sleeping.」のところを、スペイン語で同意の表現を用いて「〇〇 está sleeping.」と言ったり、「I'm not scared.」と言うところを「No tengo scared.」と言っていた。

ちょっと書いてあることはよろしくないが(笑)これもスペイン語と英語が混ぜこぜの例。「es」はスペイン語で「is」の役割をしている。また、この後書いているが、stupetもstupidを発音通りに表記したのだと思われる。

ついでに彼はまだ書きがままならない。特に英語は発音と表記が一致していないため、一致しているスペイン語よりも難しい。しかもスペイン語はいくつかの文字が英語とは違う発音になる。例えば「J」は「H」の音になる。よって彼は「Half」を「Jaf」と書いていた。日英ならぬ西英バイリンガルの成長過程はおもしろい。彼が話したり書いたりしているのを見るのに飽きることがなく、言語習得過程に関する研究でもやったらすごく楽しかったんじゃないかって、今更ながらに思った。

jaf moon」:スペイン語が分からないと、なぜJ?となってしまうが、分かると「jaf」で「ハーフ」と読む気持ちが分かるのだ。

アメリカには中南米に限らずアジア系の移民もたくさんいる。しかしアジア人はヒスパニックの人たちのように、共有する1つの文化や、1つの言語を持たない。流れてくるラジオ、テレビで見る映画、聞いている音楽、ipadなどの設定言語…生活のほとんどに溢れるスペイン語は、様々な国から夢を描いて渡米したヒスパニックの人々を繋ぐ役割を持っているのだと感じた。

 

移民の食事

さて、文化の中でも言語の次に大切なのが食事である。

 

Eの家に行って驚いたことの1つが、毎食のように出てくるトルティーだ。時間を問わず出てくるトルティーヤは、付け合わせが毎回異なる。朝は軽めに塩で味付けた炒り卵、昼食と夕食には味付けをしたチキン、グアカモレ(ワカモレ)、トマト、玉ねぎ、米…など、本当に何でもトルティーヤで巻いて食べていた。

 

また、トルティーヤに肉などを詰めてチーズや唐辛子ソースをかけて食べるEnchilada(エンチラーダ)という料理も美味しかった。

エンチラーダ

ところでメキシコ人はトルティーヤや辛い料理が大好きだが、パナマを含めた他のラテンアメリカではこれらを食べない。比較的メキシコに近い国の文化らしいが、どこまでこの「メキシコっぽい料理」の文化圏なのか、いつか中米を縦断して検証してみたいと思った。

永遠に出てきたトルティー

さて、ある日モールに行き、「Crazy Watermelon」という文字通りCrazyなものを食べた。スイカを半分に割って中身をくり抜き、そこにカットフルーツ(マンゴーやらイチゴやらスイカやら)を大量に入れ、ナッツやグミを上に乗せたところにチリパウダーをかけるメキシカンデザートで、スペイン語では「Sandia Loca(サンディア ロカ)」(直訳)という。控えめに言って不味かったので、私はせっせとチリパウダーをペーパーナプキンで拭き取りながら食べた。チリとフルーツは絶対に合わなかった。だが、スイカに塩をかけると甘くなるという原理で、彼らはチリをかけてフルーツを甘くしているのかもしれない。

クレイジーという名前がこれほど似合う食べ物はない

恒例の余談を書くと、このCrazy Watermelonに入っているナッツ(写真の黄色いもの)は「Japanese peanuts」と呼ばれている。なんだそれ、と思っていたら、周りを小麦粉でコーティングしたナッツのことで、1940年代にメキシコに移民として渡った日本人によって発明されたらしい。残念ながら、食べても日本のこれに似ている!というものが出てこず、恐らく日本では食べられていないと思う…。ある英語の記事を参考にすると、日本では「豆菓子」がこの「Japanese peanuts」に最も近いらしい…。いかにも日本原産そうな名前がついたナッツは、メキシコではとっても有名である。

 

ある時は昼食にエルサルバドル料理を食べた。トルティーヤに酢漬けされたキャベツが付け合わせだった。後々調べてみると、エルサルバドルはキャベツ大国らしく、酢漬けしたキャベツを「Curtido(クルティード)」と言うらしい。これまたなかなか日本ではない経験でおもしろかった。

 

最後に、ヒスパニックの食文化というには強引かつ偏見であるが、1つの事実として書く分にはおもしろいと思ったことを。

 

ある日私たちは動物園に行った。朝からみんなでワクワク、サンドイッチを作った。これをキッチンペーパーで包んでお弁当にし、いざ入園。ところが入園待ちの長い列があり、私たちは雑談に花が咲いていた。するとEや彼女の5つ下の弟が言う。「ああやってクーラーボックスを持ってくるのはヒスパニックに間違いないよ。」と。

 

どういうことかというと、日本でも米国でもテーマパーク内の食事は高いため、倹約家のヒスパニックは自分たちでお弁当を持ってくるという。この家族がその例だし、クーラーボックスをゴロゴロと引いてくる家族はほとんど100%スペイン語を話していた。まあ、最初に書いた通り偏見に過ぎないが、ランチボックスを持って、来る家族来る家族、スペイン語を話していると、自虐的な皮肉でもある彼らの言葉に笑えてしまった。

 

 

…まだまだ書きたいので続きは次回。私は前大学でもヒスパニック系に興味を持ったことがなく、1回もそのような授業を取らなかったのだが、この旅を通してアメリカに住む中南米人にとても興味を持ってしまった。また落ち着いたら文献を読み漁りたいと思いつつ、ここに書いたことは私の経験に基づく話だけなので、ヒスパニックと一括りにするつもりは全くない。ヒスパニックについて全く知らない人が、アメリカで経験した出来事を書いていると思って読んでいただければと思います…。

 

 

 

【参考文献】

worldpopulationreview.com

www.census.gov

 

www.worldvision.ca

 

skdesu.com